GRASS420JP PROJECT

FIELD GUIDE / 27 CARDS

GRASS 名前の図鑑

カード名は、1970 年代アメリカの言葉でできています。法廷の言葉と、売人の言葉。その二つが同じデッキに並ぶことが、このゲームの面白さです。27 枚の名前を、ゲームの来歴から順に読み解きます。

読了 12 分出典: 英・独語版 Wikipedia / 伊語版公式ルール / Games 誌

1. 名前は、二つの言葉でできている

GRASS のカードを並べると、言葉の種類が混ざっていることに気づきます。

前者はニュースや裁判で使われる硬い言葉です。後者は売人と常連が使う軽い言葉です。この二つが同じデッキに並ぶと、警察と売人の攻防が、そのままゲームの手順になるという仕掛けが見えてきます。

名前は飾りではありません。GRASS では、カード名が効果の説明になっています。だから名前を知ると、ルールが覚えやすくなります。

Market Open、Home Grown、Panama、Immunity、Colombia、Market Close、Bust のカード。
実際のカード。上段の英語が名前、下段が効果の要約です。

2. 1979 年、どこから来たのか

1979 年、アメリカ

GRASS は 1979 年に Euro Games から発売されました。作者は Jeff London。カードは麻布の袋(hemp bag)に入れて売られました。袋そのものがジョークです。

元ネタはカーレース

骨格は 1954 年の Mille Bornes(ミル・ボルヌ)というカードゲームです。1000 キロ先のゴールを目指し、途中でパンクやガス欠を食らいながら走るゲームでした。その元は 1906 年の Touring までさかのぼります。

GRASS は、その「走る」を「売る」に置き換えました。ゴールは $250,000。途中で止められるのは、パンクではなく警察です。

引退した警察官が作った、という話

Games 誌は 1982 年、このゲームを「引退した警察官が考案した」と紹介しました。取り締まる側が、売る側のゲームを作った。このねじれが、名前の選び方にも表れています。

Games 誌の Top 100 と、Cheech and Chong

Games 誌の Top 100 には 1980〜1982 年に入りました(独語版では 1986 年まで)。1980 年には「Cheech and Chong が待っていたカードゲーム」と評されています。Cheech and Chong は、1978 年の映画『Up in Smoke』で知られるコンビです。つまり、当時の大麻コメディの空気を、そのままカードにしたゲームでした。

なぜ「GRASS」なのか。
grass は 20 世紀前半から使われてきた、大麻の俗称です。芝生と同じ綴りなので、タイトルそのものが二重の意味になっています。麻布の袋、芝生の名前、草の売買。最初から最後までジョークでできたパッケージです。

3. 警察の言葉 — Heat On / Heat Off

警察側のカードは、ほぼ全部が法律用語です。しかも、手続きの順番に並んでいます。

Bust — 手入れ、逮捕

警察が踏み込むこと。店が「潰れる」ときにも使う言葉です。ゲームでは相手の市場を止めます。いちばん直接的な俗語で、いちばん基本的な攻撃カードです。

Detained — 拘留

その場で捕まえられ、身柄を拘束されること。Bust より少し軽い段階です。ゲームでは、解除されるまで市場が止まります。

Felony — 重罪

アメリカの刑法では、軽罪(misdemeanor)に対する重罪を felony と言います。取引が大きいほど罪も重い、というわけです。ゲームでは、これも市場を止めるカードです。

Search & Seizure — 捜索と押収

アメリカ合衆国憲法修正第 4 条の言葉です。「不合理な捜索・押収を受けない権利」を定めていて、令状なしの家宅捜索を制限します。カード名としては、家宅捜索そのものを指します。法律の条文が、そのまま攻撃カードになっている例です。

Heat On / Heat Off — 熱と、冷ますこと

heat は「警察の目」「捜査の圧力」を指す俗語です。日本語の「お灸をすえる」に近い感覚です。Heat On は圧力をかけること、Heat Off は熱を冷ますこと。つまり、疑いを晴らすことです。

Immunity — 免責

訴追されない権利。証言と引き換えに免責を与える、という取引でも使われます。Bust を解除するカードなので、「警察をかわせる」わけです。

Hearsay Evidence — 伝聞証拠

人づてに聞いた話。法廷では原則として証言に使えません。噂話で重罪を立件するのは難しい、という理屈です。ゲームでは Felony を解除します。法律の知識がないと意味がわからない、いちばん玄人向けの名前です。

A Breeze to Fly — 飛ぶのは朝飯前

breeze は「楽なこと」。fly は「逃げる」。合わせて「逃げるのは簡単」という軽い言い方です。Detained を解除します。ここだけ法律用語ではなく、口語のジョークになっています。

Charges Dropped — 起訴取り下げ

検察が訴えを取り下げること。裁判になる前に話が終わります。Search & Seizure を解除するカードです。手続きが止まれば、捜索も終わるという対応です。

Pay Fine — 罰金

罰金を払って片をつけること。ゲームでは、市場のいちばん安い草を罰金として差し出し、ヒートを解除します。金で解決する、という現実的なカードです。

4. 売る言葉 — Peddle と産地

Peddle — 行商する、売りさばく

peddle は「戸別に売って回る」という意味です。drug peddler と言えば、密売人。ゲームでは Peddle カードが売上そのものを表します。動詞が名詞になった、いちばん素直な名前です。

Market Open / Market Close — 市場の開閉

路上の売買を「市場」にたとえています。株式市場のように「開く」「閉じる」と言うのが、このゲームのノリです。Market Close を出すと、そのハンドの商売は終わり。閉店です。

Home Grown / Mexico / Colombia / Jamaica / Panama — 産地と値段

Peddle カードの名前は、ほぼ産地です。自家栽培の Home Grown が $5,000 でいちばん安く、輸入ものは高くなります。メキシコとコロンビア、ジャマイカ、パナマ。1970 年代のアメリカ市場のルートが、そのまま値段になっています。

カード値段名前の意味
Home Grown$5,000自宅栽培。手間はかかるが安い。
Mexico$5,000いちばん近い輸入ルート。定番。
Colombia$25,000南米の産地。品質と量で高値。
Jamaica$25,000カリブの産地。名前が知られている。
Panama$50,000中米。積み替え地点としても重要。
Dr. Feelgood$100,000「気分を良くする先生」。最高値。

産地の名前は、品種の名前でもある

Peddle カードの名前は産地ですが、1970 年代のアメリカでは、産地がそのまま品種の呼び名になっていました。

ゲームのカードは特定の品種を指すのではなく、産地と値段の関係を表しています。品種名は流通上の呼び名で、同じ名前でも中身が違うことがあります。

Dr. Feelgood — 気分を良くしてくれる先生

「気分を良くしてくれる先生」というあだ名です。強い薬を気前よく出す医者や、それを渡す人を指しました。1970 年代には同名のバンドもいます。ゲームでは $100,000 の最高値。しかもこのカードだけは Protect で守れません。いちばん怪しくて、いちばん危ないカードです。

5. 快楽と恐怖 — Nirvana / Paranoia

Nirvana — 涅槃

悟りの境地。いい trip の比喩です。ヒートを全部解除し、各相手から草を 1 枚もらい、もう 1 回自分の番になります。名前のわりに、やることは強欲です。

Stonehigh — 石のように high

stoned(石のように動けないほど酔う)と high を組み合わせた名前。Nirvana の中では、各相手のいちばん安い草をもらいます。Euphoria は逆に、いちばん高い草をもらいます。

Euphoria — 多幸感

医学用語でもある「多幸感」。1 枚しか入っていない、レアな Nirvana です。

Protect — Lust Conquers All / Grab a Snack / Catch a Buzz

市場の草を守るカードです。名前はどれも快楽的です。

守るカードなのに、名前は遊び。この落差が GRASS らしさです。

Paranoia — 妄想

使いすぎたときに出る不安。ゲームでは、自分に不利な効果を持つカードです。場に出すと全員が左隣へ手札を 1 枚渡します。手札に残すと減点。

Skim — 上前をはねる

skim は「上澄みをすくう」。そこから「上前をはねる」の意味になります。Skim のカードは 2 種類です。

6. 名前がゲームの仕組みになっている

ここまでの名前を並べ直すと、ゲームの流れが見えてきます。

段階カード意味
1. 売るMarket Open → Peddle市場を開いて、草を置く。
2. 止められるBust / Detained / Felony / Search & Seizure警察の手続きが進む。
3. 逃れるImmunity / Hearsay / Charges Dropped / Pay Fine法廷と金で片をつける。
4. 守るProtect / Banker資産を安全な場所へ。
5. 締めるMarket Close閉店して精算。

Mille Bornes では「止められる → 直す」でした。GRASS では「止められる → 法廷で戦う → 金で払う」になっています。カード名を変えるだけで、同じ仕組みが別の物語になったわけです。

ゲーム画面。市場に草が並び、手札にヒートのカードがある。
実際の画面。ヒートのカードには「→ Immunity」のように解除カードが表示されます。
デザインの妙。
GRASS の名前は、法律用語の硬さと、売人言葉の軽さをわざと衝突させています。Bust の次に Sold Out が来る。Felony の解除が Hearsay Evidence。この不揃いさが、1979 年のアメリカの空気をそのまま閉じ込めています。

7. 大阪弁で読み替える

このゲームの英語は、法廷の硬い言葉と街の軽い言葉が混ざっています。それを大阪弁に置き換えると、ちょうど同じくらいの温度になります。意味と並べてみました。

警察と法廷

カード意味大阪弁やと
Bust手入れ・逮捕あかん、ガサや!
Detained拘留ちょっと来いや
Felony重罪大ごとやで
Search & Seizure捜索と押収家探しや!
Immunity免責おとがめなしや
Hearsay Evidence伝聞証拠又聞きやで
A Breeze to Fly楽に逃げる朝飯前や
Charges Dropped起訴取り下げ話、なかったことにしよ
Pay Fine罰金罰金払うたろ

売る

カード意味大阪弁やと
Peddle行商する(カードの種類)売りさばくで
Market Open商売開始もうかりまっか
Market Close閉店ほな、閉店や
Home Grown自家栽培うちで育てたんや
Mexico産地メキシコもんやで
Colombia産地コロンビアもんや
Jamaica産地ジャマイカもんや
Panama産地パナマもんや、ええで
Dr. Feelgood気分を良くする先生ええ気分にさせたるわ

気分と裏切り

カード意味大阪弁やと
Nirvana涅槃(カードの種類)悟ったわ
Stonehigh石のように high石みたいに固まってるわ
Euphoria多幸感えらいええ気分や
Lust Conquers All愛欲はすべてに勝つ色気には勝てへん
Grab a Snack軽食なんかつまもうか
Catch a Buzz軽く high になるちょっと一服
Paranoia妄想(カードの種類)ビビってまう
Sold Out売り切れ/密告売り切れや、売られたわ
Double Crossed二重の裏切り裏切られてしもた
Utterly Wiped Out完全に消えるわやや、全部消えた
Steal Your Neighbour's Pot隣の鉢を盗む隣の鉢、もらうた
Banker銀行家銀行さん、手数料やで

大阪弁は関西の話し言葉で、地域や世代で違いがあります。ここでは、意味が通る範囲で遊んでいます。ゲーム内のカード説明と図鑑にも、同じ当て名を入れました。

8. スラング用語集

言葉意味
bust手入れ、逮捕。失敗して潰れること。
catch a buzz軽く high になる。
detain拘留する、引き止める。
double-cross裏切る。二重の裏切り。
euphoria多幸感。
felony重罪。
grab a snack軽食をつかむ。空腹対策。
heat警察の目、捜査の圧力。
hearsay伝聞。人づての話。
lust conquers all愛欲はすべてに勝つ。
nirvana涅槃。悟り。
paranoia妄想、偏執。
peddle行商する、売りさばく。
pot大麻。植木鉢。
protect守る。
search & seizure捜索と押収。
skim上澄みをすくう、上前をはねる。
sold out売り切れ。密告されて売られること。
stone high石のように動けないほど high。
wiped out完全に消し飛ばされる。

9. 出典と、断定しないこと

このページの来歴は、次の資料にもとづいています。

語源の説明は、当時の俗語としての意味をまとめたものです。なかには複数の解釈がありうるもの(A Breeze to Fly、Dr. Feelgood など)も含まれます。断定できないものは「〜という意味」「〜というあだ名」と書きました。法律用語の説明は一般的なアメリカ法の用法にもとづく要約で、法的助言ではありません。

ゲーム名・カード名は原典のものです。本作は個人で遊ぶための移植で、実物の大麻は扱いません。

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